6次産業化の成功例と農産物の単価アップの成功事例

      2017/02/17

●止まらない農業人口の減少

平成27年の農業人口は、農水省によると209万人です。5年前は260万人ですから、加速度的に減少しています。原因は皆さんもご存じの通りかもしれません。深刻です。そこでそのあたりは後述するとして、この農業の問題と、それと同時に生じている農村地域の衰退問題をどう解決するか、その答えを探りに取材に行きましたのでその事例を少しご紹介します。

●もち米の産地化を農業者自ら大福生産などで実現 北海道名寄市
私が取材に伺って一番スゴイ事例だなと思ったのは北海道名寄市のもち米の取組です。もともと旧風連町は、日本でも米作りのほぼ最北端。冷害に苦しみ、安い値段でしか買って貰えない、農家は冬場に本州に出稼ぎに行ってその収入で辛うじて生計を立てていました。このままでは展望がないと悟った堀江さんら米農家20人は比較的寒さに強い「もち米生産組合」を結成してもち米生産を始めました。

地域で一緒にもち米を作らなければならないのは、うるち米と交配してしまうからです。でも当初からもち米の主産地は北陸。道北のもち米なんて、と低い評価しか得られませんでした。

そこで平成元年に、農業者や農協、役場にも協力を得て「もち米の里ふうれん特産館」を設立し切り餅の製造販売を行ったのです。当初は販売低迷しました。転機となったのは切り餅セットのデザイン見直しです。この見た目が、まるで石けんのギフトのように綺麗だと評判になり、売れ行きが伸びたのです。

でもこれだけではまだまだ。そこで堀江さんはモスフードサービスの創業者、桜井慧氏に風連のモチ米の魅力を必死で営業しました。冷涼な地域で栽培するため低農薬であることが評価され、全国のモスバーガーで切り餅を使ったお汁粉がメニュー化。一冬で100万食の売上げになりました。大手企業との取引に際し、品質、衛生が厳しく問われ工場の建て替えなども行いました。

次に取り組んだのは18種類のソフト大福の開発です。平成14年に発売。急速冷凍の技術を導入し、自然解凍するだけでつきたての餅と変わらない食感が評判で年間120万個もの売上げがあります。実は私もコレ、何度も食べていますし、うちの編集長もお気に入りで本州からのお客さんにおみやげでお渡しすることもあるようです。なんせすごく美味しいんです。見た目も可愛いし。

平成18年には株式会社化も果たし、道の駅の指定管理も受託。年商5億円。従業員は55人で最盛期には20人のパートも加えますが生産が追いつかないほど。昔は、冬は出稼ぎに行って生計を立てるしか無かったわけですが、今では春夏秋はモチ米づくり。冬はモチづくりで生計が成り立ちます。家族も一緒に暮らせます。

こんなにスゴイ成果があり、全国から6次産業化の先進例だと言われ、視察が絶えません。しかし堀江さんは農業の6次産業化には厳しい見方をしています。行政や農協や生産者が頑張って加工施設を建て、商品化までに漕ぎつけたとしても、いざ売るというところの段階で、売り先がないということが多い。農商工連携でも失敗は多く安易に飛びついては大変な目に遭うかもしれないと指摘します。

●町の独自品種を開発し高く売る戦略 北海道栗山町
栗山町はタマネギ生産が年間2万㌧。米、麦、タマネギを主力とする農業地帯です。タマネギ農家の最大の悩みは売値の暴落。タマネギをスーパーで消費者が買う場合、平均すると1個30円位でしょうか。でもその場合、農家の出荷価格は10円位です。丹精込めて生産してもタマネギ1個10円。

そこで種苗メーカー出身の研究者、岡本大作さんが平成15年に栗山町に植物育種研究所を設立し世界から300種類のタマネギを取り寄せ、品種改良を開始。翌年には血糖値の抑制や血栓予防、生活習慣病予防にも効果があるケルセチンを一般のタマネギの1・5倍から3倍も含む新品種「さらさらレッド」を開発したのです。これが健康ブームにも乗って大人気。1玉40円で出荷されるようになりました。

●苦労もやまほど・・・
未知なる品種を栽培するのは農業者にとって大きな冒険です。岡本さんは生産者に種子を無償提供し、収穫物の全量買取も約束しました。岡本さんは札幌市内のデパートや食材にこだわりのあるレストランなどに営業を行い、直売のルートも作りました。岡本さんは品種開発から種の提供、農業者への協力依頼、買取の約束、営業、マスコミ対応など、研究者とは思えないほどのあらゆる難題をこなし、今では栗山町のさらさらレットは多くの人が知る一流ブランドに成長しました。

岡本さんは他の地域からの依頼も増え、あちこちの地域で独自品種の開発に取り組んでいます。全国一律の同じ品種の作物がスーパーに並ぶ時代。そうなるとどうしても価格勝負になってしまうのです。その地域でしか収穫できない、特別な価値のある品種を地域みんなの協力で育て揚げることによって、地域の農業を救うことができるわけです。消費者にとっても多様な、個性的な農作物が手に入ることは魅力的ですよね。

名寄市風連の取組は、作物の産地形成から営業、加工品の開発や販売店、ネット通販に至るまで全部を地域の農業者がやってのけたケースです。

栗山町のさらさらレッドの取組は、ある研究者と地域のつながりがきっかけで、品種の開発から町の特産品づくりを実現させたケースです。

かなりの苦労を重ねています。地元にも賛成しない人がいたそうです。でもその結果、つかんだものは大きいのです。

●農業が低迷し、農業地帯が苦境にある原因は何か?
最大の原因は農業そのものの収益性が悪いことではないでしょうか。例えば、北海道十勝などでは、各農業者の収益性が高く、生計が成り立つため安心して子育てもできるし、子どもたちも後を継ごうと考えます。そのため離農自体が少ないわけですが、やはり田舎の過疎高齢化はあるので、離農はときどき生じます。しかし近隣の農業者は機械化も進んでいるため耕作地の拡大による収益性の拡大を狙い、農地取得を望むので、結果、地域には耕作放棄地も少なくなるわけです。

また十勝の川西農協などは、昭和40年代の畑作自由化により、看板作物を作ろうと近隣農協が一体となってナガイモの生産技術の強化と通年生産、さらには台湾などをはじめとする海外輸出にも乗りだし、今では北海道内でも極めて好調な農業を行っています。

このように、農業そのものが順調であれば、農業者は減らないし、むしろ地域の経済をささえ人口を維持する意味でも農業が大いに役立つ存在になります。しかし全国各地を見ると、このような農業地域は一握り。息子には後を継がせたくないとまで思う農業者も少なくありません。農業人口はますます減り、日本人が食べる農産物を日本国内で生産することがどんどん難しくなってくる状況です。

●農業の未来はどう切り拓くのか

この問題を解決するには、まず競争力の高い農産物に地域の農業者が果敢にチャレンジすること。しかしそれだけでは他産地との消耗戦になってしまうので、一つは川西農協のように国外輸出。そしてよく言われる6次産業化や直売、ネット通販、飲食店などとの連携など、素材そのものではなく、価値の高い商品に変え、また消費者に直接売るという取組。さらに家族経営から農業法人化コンストラクト方式などへの転換、家畜糞尿のバイオマス活用や大規模機械化などといった、働き方や経営方法の見直しなどが指摘されており、そういった面での成功例も少しずつ出ています。

あくまで私見ですが・・・
始まりは地域のごく一部の人のアイデアに過ぎないかもしれません。でも大きなことを成し遂げるには、苦労も承知で協力してくれる仲間が必要です。野菜を育てることが得意なだけじゃダメで、時には営業も、商品化も、ネット通販も、接客も、時には考えの合わない人にも相談に行きながら、そして数年くらいの苦労は必死に耐えて、実を結ぶまでやり通す。

今回は、2つの事例を紹介しましたが、実際はここに書き切れないほどの苦労はあったようです。地域農業の未来を切り拓くほどの事例から学ぶべきは、もしかしたら努力を続ける期間、そして身を挺して、たとえ苦手なこと、未経験なテーマでも挑む人物の存在、支える仲間の存在かもしれません。

なお、もち米のさと風連のソフト大福はネットでも売っているようです。騙されたと思って買ってみてください。凄くやわらかくて美味しくて。良いですよー!
http://www.mochigome.jp/

栗原
北海道・札幌の編集者・ライター栗原です。紙やwebなど様々な媒体で取材・撮影・記事を制作しています。栗原のプロフィール facebook  twitter  mail  札幌良い住宅jp

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