木くずや家畜糞尿で地域エネルギー自給を目指す2事例
2016/01/03
木くずは燃料に、家畜の糞尿は畑の肥料に。そんな時代とはちょっと手法が異なりますが、林業や農業で発生する副産物をエネルギーに変え、それにより地域の活力に変えていくことに成功した2つの地域をご紹介します。
●きっかけは住民の苦情から
年間10万トンもの生乳を生産する鹿追町では、110戸の酪農家が19000頭の乳牛を飼育しています。牛一頭が排出する糞尿は一日で約65キロです。大規模化が進む酪農家にとって、これだけの膨大な家畜糞尿をどう処理するかは重大な問題です。発酵させずに牧草地や畑に散布すれば窒素、リン、カリウムなどが周辺の河川や地下水を汚染します。国は平成11年に、酪農家に、糞尿をたい肥化してから畑に散布するように義務付けましたが、そのために各酪農家には大変な設備投資が必要になりました。また、散布する時期になると住宅街の住民からにおいに関する苦情が多く市役所に寄せられていました。鹿追町は酪農家の経営・労働負担の軽減、環境保護、そして住民の生活を守るためにバイオガスプラントの建設に踏み切りました。
●農家が喜び、発電も実現、地域おこしの商品化も進む
平成19年10月、一日で牛1320頭分、94・8トンもの糞尿を処理できる「鹿追町環境保全センター」が運転開始しました。酪農家はコンテナに糞尿を貯めておきます。するとセンターのトラックが毎日コンテナを回収しにくるので酪農家はこれまでのような糞尿処理の重労働から解放されるのです。女性従業員がまず喜び、酪農を継ぐかどうか迷っていた息子がこれによって跡を継ぐ決意をした事例もあるそうです。また糞尿を使って一般家庭460世帯分、1日4000キロワットの発電が可能になりました。プラントで生じた液肥を畑作に活用することで循環型農業も実現できました。またメタンガス発電で生じた熱エネルギーでさつまいもの栽培、チョウザメの養殖もでき、サツマイモは干しイモに、チョウザメはキャビアの商品化も進んでいます。平成25年には1基目よりさらに大きい2基目のバイオガスプラントの建設も始まりました。今や町内で生じるか家畜糞尿の約3割を処理できるようになったのです。
●「炭カン」の大ヒットが転機となった下川町
昭和39年の木材輸入自由化で安価な外材が入ってくるようになり日本の林業は壊滅的な打撃を受けました。特に林業を中心とする地域は、若者が都会に流出し森も荒れました。下川町も同様でしたが昭和56年の湿雪による倒木、枝折れの大被害で、森の中の倒木をどうにか処理しようと木炭づくりを始めたのが転機となりました。カラマツの木炭は当初はなかなか売れませんでしたが缶の中に木炭と着火剤、マッチを入れた「炭カン」を発売したところアウトドアブームの影響もあって大ヒットしたのです。従来型の林業だけでなく、工夫次第では道が開ける!そう考えた下川町森林組合と下川町は次なる挑戦を始めます。
●森林を軸とする地域運営
林業の衰退とともに担い手も激減していました。そこで森林組合は平成8年以降、町や商工会と連携して体験ツアー、そしてホームページでの人材募集も始めました。この珍しい取組に全国各地から希望者が殺到。今では町内でチェーンソーアートの達人や森を生かした教育などに取り組む人材がまちで活躍しています。町は、平成17年以降、公共施設などに次々と木質バイオマスボイラーを設置し、需要を生み出したうえで木質バイオマス製造を民間に委託。今では町内の公共施設で使われる熱エネルギーの4割は木質バイオマスに切り替わりました。年間1400万円以上の燃料費節約と、林業振興の両面で効果が出ています。木質バイオマスを生かした薬用植物の栽培、環境教育、エネルギーの自給、移住者の増加、先進地としての知名度向上、行政、林業者、商業者や住民との連携などさまざまなメリットが生まれているのです。