町内会が解散する時代。町内会(自治会)運営の現代的課題とは?
2019/04/09
町内会が欠かせない時代もあった
1937年の日中戦争の頃から日本各地で組織され始め、太平洋戦争の戦時下に大政翼賛会の末端組織としてでき、戦争遂行に大きな役割を果たしたのが「町内会」。
以降、町内会は定着し、道普請や街路灯の設置、お祭りの運営、防犯、行政へのお願い事、ゴミ収集、お葬式のお願いなど、町内会・自治会が、暮らしの様々な問題を解決してきました。そういう時代では、誰もが町内会に入って、町内会費を払ったり回覧板を回したり、お祭りやお葬式の運営を担ったり。そんな時代もありました。
ところが、今やお葬式は葬式業者にお任せ、お祭りや回覧板はずっと前に無くなった。街路灯や道路の補修などは問題もほとんどない、行政にお願いしたいことも特に・・・。そんな時代になって町内会、自治会の存在がとってもありがたい、なくてはならないものだ、という感じではないと思われている時代になっています。むしろ町内会の班長になりたくないからお祭りに顔を出さない、といった傾向もあります。
町内会活動に参加しない、町内会費を収めない人もどんどん増えています。また、少子高齢化・過疎化の進展で、町内会のエリア内にいる住民の数自体がぐんぐん減っているという問題も起きています。町内会加入率が5割を切る地域もあります。町内会が解散してしまい、参加しようにも町内会がない地域もあります。町内会が形の上では存在していても、年に1回の活動もできない、総会も役員会も開かないという実質的には無いも同然の町内会もあります。そうなんです。もはや町内会は時代の波にさらされ風前の灯火ともいえる状況なのです。
町内会自体も時代に適応できない?
また町内会側も、運営役員の高齢化と固定化で活動自体がマンネリ、低迷の問題を抱えています。NPO法人を始めとするさまざまな市民活動は活動方針が明確で、活動に共感する人たち同士が、共通の目的に沿って活動するわかりやすさ、合意の取りやすさがあります。一方、町内会・自治会はある意味ではたまたまその地域に住むご近所さん同士という関係に過ぎません。その地で何代にわたって生き、商売をしてきた時代、地縁で地域の課題を解決してきた時代ならいざ知らず、今や進学や転勤、結婚などさまざまな機会に住むまちを変えるのが当たり前の時代です。同じ地域内に住んでいるからといって、共通の目的を持つ、共感しあえる前提が薄れているのは確かでしょう。
3世代同居などが珍しくなった現代。時代の変化も急速に進む現代で、今の10代、40代、70代などが同じ価値観を持って地域で活動する、共感しあうのも難しい時代でしょう。そういう時代にもかかわらず町内会の役員の多くはシニア世代限定です。サラリーマン世代は残業も多いせいでしょうか。ほとんど町内会や消防団などの活動に参加していません。女性も子どもも町内会役員になっている人は少ない。町内会役員がシニア世代の男性に偏ると、子育て世代や女性のニーズ、声が反映しにくくなります。そんな町内会はいらない・・・。そう思われてしまっては、ますます町内会離れが進みます。
事例1 自ら模範を示す町内会会長。鍵は自主性
町内会とは結局、活動を支える人間と、その恩恵を受けるなど、何らかの関わりのある人同士の関係のことだと思います。その意味で一つ、興味深いケースがあります。芦別市の幸町町内会は、地域住民460世帯中450世帯が町内会に加入する町内会です。防犯パトロールや毎月の敬老会、花いっぱい運動などいろいろな活動を行っています。この町内会にも大きな問題がありました。役員の高齢化で担い手が減っていること。そして地域に独居老人が増えていることでした。
合田幸夫さんが平成24年に会長に就任した当初に行ったのは、町内に64カ所あったゴミボックスの改造でした。冬になるとゴミボックスが雪に埋もれて使えなくなる、カラスが中のゴミをあさる問題があったのです。そこで合田さんは自宅のガレージボックスで得意の溶接技術を使ってゴミボックスを高床式に改造し、ふたも設置して、完成するたびに住民に連絡して引き渡しました。どこぞの町内会長のように、会議の席で何やらもっともらしいことを言ってふんぞりかえって、結局何にもしない人とは全く違うのです。自らの行動で町内会がどうあるべきか、模範を示したのです。この会長の姿勢は町内会皆に、知れ渡ることになりました。
次に合田さんが行ったのは組織のスリム化でした。6つの部会と部長職の廃止、経費削減です。さらに新事業を行うときは役員に関係無く、やる気のある人を募って行う方式にしました。当時独居老人はエリアに95人いました。そこで会長が月1回、独居高齢者を訪問する「訪問隊」を結成したいと呼びかけたところシニア世代の女性を中心に35人が名乗りを上げたのです。
元看護師の女性が、訪問隊の活動内容を全てノートに記録しています。最初の数ヶ月は挨拶程度だったのが、次第に都会に引っ越した娘の話、自身の健康の話、町内会の行事が楽しくお友達もできた話、学生時代の思い出話など、記録が月を追う毎に充実。訪問される側だけでなくする側も月1回の交流が楽しみになってきました。
こうした活動で、ある独居高齢者のご自宅の郵便受けに新聞が溜まっているのを近所の方が気づき、町内会長が記録に基づき、外泊ができる健康状態の方ではないと判断、警察などとも連携し自宅内で倒れている高齢者を発見できたケースもありました。地域の高齢者が地域の高齢者を支える時代です。お互いに気持ちよく支え合える、そんな関係性を作り出したのは、自ら率先して行動した会長の心意気が始まりでした。
事例2 若い人が参加しやすい町内会
釧路市に興味深いケースがあります。「昭和南6丁目町内会」です。新興住宅街なので町内会は無く、地域の若手が集まって町内会を新設。街路灯設置や防犯などの活動を始めました。注目すべきは運営方針です。毎月の役員会や総会で手続きや合意形成、懇親を深める会議が多い町内会を反面教師に、この町内会は年1回しか役員会を開きません。あとは子育て世代が楽しいと思う凧揚げとか、夏祭り、廃品回収などの活動方針をさっさと決め、子育て世代で仕事が忙しい人たちを会議でわずらわせることをしないのです。こまめに行う行事も、参加出来る人だけ。フェイスブックなども使って情報発信を進めています。この町内会に憧れて移住してくる人までいるといいます。こういう若い人が好む、参加しやすい町内会だと、運営を担う人も出てくるのです。
町内会も何十年も運営すると当初と時代背景も目的も、ふさわしい運営体制も変わってくるでしょう。世代交代も内容の変化もどんどん進めていかないと、今の住民に受け入れられる町内会を維持できないのです。
少子化、過疎化で町内会が危機
もう一つ。全国各地で進む、少子高齢化や過疎化の流れを踏まえた地域コミュニティ再編の問題を考える必要があります。参考になる事例を紹介します。北海道の東。標茶町は酪農を中心する町で昭和33年には18833人もの人が暮らしていました。地域の発展に合わせ、他の地域と同じように、住民を主体とする
地区部会、
農事実行組合、
酪農振興会、
河川や森林の愛護組合、
交通安全推進委員会、
老人クラブや
神社総代会、
部落会など
さまざまな団体が生まれました。住民が増え、地域経済が活発になると地域の新たな課題も出てきますし、活気も生まれると言うことは新たな行事なども増えます。コミュニティも行政や農協、学校関係など様々なところから設立を呼びかけられ住民たちが次々と新たな組織をふやしていったのです。
ところが少子高齢化・過疎化が急速に進むと、今までそれぞれの地域団体の役員を務めていた人たちが1人1人と減っていきます。会員も役員も減ってしまいますから、徐々に活動が停滞していきます。毎月やっていた会合が2カ月に1回に、年4回やっていた祭りや防災訓練などの地域行事の回数や規模も減っていきます。
さらには、あの会の会長さんは別の会の副会長もやっているといった兼職が増えていきます。そうなんです。少子化しても組織の総数は従来通りという年月が長く続き、あるとき各組織の継続が難しくなってくるのです。同時に、町の名士と目されている人が複数の組織の会長などを兼務するようになるので、地域のさまざまな課題を解決するときに、ごく一部の重鎮の意見が議論を左右するようにもなります。また、部落会も、構成世帯数がこれまで50あった部落会が今では10世帯しかなくなって、全員が役員になってしまうし、役員といっても高齢の方もいるので活動が維持できない、といったことが起きるのです。この状況は町民にとっても嬉しくないし、役員たちも負担を感じます。何も良いことはないのですが、長年続いてきた地域組織を守ることも使命だと考えてしまうのです。
事例3 集落&町内会再編に取り組む町
そこでこの町のある町職員は、町内の各集落の総会などに何度も顔を出し、心を通わせながら、118あった町内会・部落会を10年以上の年月をかけて41にまで再編したのです。118を41に再編しただけではありません。その集落の中の趣旨別のさまざまな組織も統合していったのです。
一般論ですが、地域内の各組織を併合するということは、併合後の代表を誰にするかが問題になります。同じ地域の団体でもそれぞれ個性も目的も構成員も違います。となりの町内会と併合するとなったら、なおのこと難しいということがあります。それぞれの団体が活動の低迷に苦しんでいるとか役員の担い手がいないとか、老朽化した公民館を維持しきれないとかそういう事情はあったにしても、今まで別組織だったもの同士が一つになるときは、「心」の問題が中心になってなかなか難しい状況になることは、皆さんも想像できるかと思います。
標茶町は、職員が何度も何度も地域に足を運び、決して指図することなく、理解とつなぎを丁寧にやっていったので実現しました。地域の人口・活動が小さくなるのに合わせて地域コミュニティも再編する。言うはやすし、です。これによって役員が再び充実してお祭りが復活したり、児童の農業体験受け入れができるようになったコミュニティもあります。各地域が地域整備計画を住民主体で作るようになり、まちづくりを進めるコミュニティも増えています。
1つの町内会や自治会だけの問題じゃないということなんです。老人会や消防団、子ども会、農協やpta、防災対策の住民グループ、交通安全、町の美化、認知症高齢者の捜索、除雪、お祭り・・・。地域にとってやるべきことはいっぱいあるのです。それぞれに組織を結成してそれぞれに役員を配置して、それぞれに予算を組んで、各自活動をしていくほど地域に体力と人材はないのです。
地域のあらゆる課題を世代や立場を超えて協力し合える大きな地域コミュニティを作って、その中で、例えば認知症予防と体操教室のサークル活動に協力出来る人を何人かみつくろってその活動を行う、夏祭りの後に避難訓練の炊きだしを行う、お祭りで農産物の直売を行う、小学校の授業に地域のお年寄りが協力する農業体験が教育にも世代間交流にもつながるといった、副次的な効果を狙って行っていかなければ地域に山積する課題をクリアできないのです。一部の役員だけでまちづくりをすべきでもないのです。今までそういった地域組織に呼ばれることもなかった若い人や女性、そして日中はよそに働きに行って地域活動が殆どできていない働き盛りの男性なども巻き込むべきなのです。
最後に 女性や若者が主役の町内会を
現実を見れば町内会・自治会役員は9割がシニア男性です。主役はシニア男性でokですが、子育て世代、女性、そして子ども達にとっても有用な町内会であるべきです。彼らの声を受け止める度量、興味を引くプログラム。シニア男性とは異なる発想や拙いアイデアも受け止められる町内会、自治会でなければ、それは敬老会にすぎません。過去の成功体験にすがらない、形骸化した組織や旧来の目的とは違う今の町内会の役割を考える。
これまでの町内会・自治会とも違う自治会・町内会づくりに取り組んで欲しいと思います。
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●イヤイヤ町内会長になってエラい目に遭った人の体験談 参考になります
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はなかなか面白い本です。町内会の問題を真正面から捉えた本です。一面では非常にうなづける。でも答えの出し方はこの人のやり方だけじゃないとは思います。