失業者・生活保護受給者の就労支援で成果をあげる自治体!
2016/02/18
釧路市は漁業や紙・パルプ業の不振をはじめ平成14年の太平洋炭鉱閉山などが相次ぎ、生活保護率は5%以上、約1万人にも上ります。この釧路市が、生活保護受給者の就労支援で全国にも例のない取組で成果をあげています。
●なぜ失業者、生活保護受給者が増えたのか
北洋漁業が規制に遭い、炭鉱も閉山すると、働き盛りの労働者が一気に路頭に迷いました。労働意欲も十分、自分の仕事に対する能力にも自信を持ち、家族を養ってきた男たちがいきなり失業するとどうなるか。漁業者や炭鉱労働など、専門性の高い業種であればあるほど、転職先はなかなか見つかりません。40代、50代ならバリバリ働けるのに、パソコンが使えないとか、営業経験がないとか、そんな理由で、就職活動は面接にすらたどり着けません。今まで築きあげてきた職業人、社会人としての誇りもガラガラと崩れていくのです。そして同時に、こうした基幹産業が地域から失われると、飲食業やスーパー、住宅業など関連産業にも軒並みしわ寄せがきます。地域全体の景気低迷により、求人はますます減ってしまいます。
失業期間が長引く人の中には、人目が気になり外出したくない、誰とも会いたくなくなる。家に引きこもりがちになり社会と疎遠になったり健康を害したり、中にはお酒に頼ってしまう人も出てきます。今まで、仕事でメリハリのある生活と気力を維持してきた人でも、生活が乱れた結果、今までできたことすら満足にできない人になってしまったりします。悪循環なのです。
●ケースワーカーという仕事に誇りはあるか
生活保護受給者が増えると、生活保護受給者のさまざまな悩みや手続きを支える市職員「ケースワーカー」の仕事も増えます。ケースワーカー1人あたり80人もの生活保護受給者を抱えて保護費の算定や定期的な家庭訪問、就労に向けたサポートなどを行うのは大変なことです。生活保護受給者の中には、働ける能力があるのに病気を装ったりという人も、ケースワーカーの呼びかけに逆切れする人もいます。就労に向けて真剣に努力されている方が大半とはいえ、多くの方が仕事、生活、健康、年齢面などさまざまな点で悩みを抱えています。ケースワーカーもごく普通の市職員であり、たまたま異動でその担当になるわけですが、この職場を担当するのを嫌がる、恐れる市職員もいます。仕事をする中で、生活保護受給者とのやりとりを重ねる中でモチベーションを落としてしまう人も少なからずいます。そんな中、釧路市は、ケースワーカーという仕事を改めて見直すワーキンググループを平成16年に作りました。ケースワーカー自信がこの仕事に誇りを持ち、問題を解決できる人材になるために・・・。議論を重ねるうちに、「生活保護受給者にあれをしてはダメ、これをしてはダメ」というわけではなく、「受給者は本当はどんな生き方、仕事をしてみたいのか、それを一緒に考えたい」という声が出てきたのです。
●失業者が就業することがどれだけ大変なことか・・・
釧路市が平成18年に始めた「自立支援プログラム」は、生活保護受給者が「働く」に至るまでのステップを受給者目線で真剣に考えた結果生まれた取組です。もしあなたが、5年前から失業し、ハローワークに何度通っても面接にすらたどり着けず、暮らしは困窮し、家族の問題も増え、自信を失い、生活も乱れて、そのまま失業を5年も続けていたらどういう心理状況に陥っているでしょうか。もはや自分は就職なんて無理じゃないかと思うかもしれない。朝早く起きて夕方まで働ける体力もなくなっているかもしれない。接客や営業など、人前に出ることに恐怖を感じているかもしれない。もしかしたらケースワーカーが家庭訪問に来て、働け働けと言ってくるのが恐ろしいかもしれない。働けない状況なのだとケースワーカーに思ってもらい、生活保護が打ち切られないようにいろいろ考えるかもしれません。そして釧路市内のハローワークには、実際に、これぞといった求人もほとんどないのです。そんな人に、ケースワーカーは何ができるでしょうか。
●働く喜び、きっかけを作ることからスタート
ケースワーカーたちはまず、就労体験ができる環境づくりから始めました。授産施設での製造作業、動物園や公園での作業、福祉施設での話し相手など。「1週間のうち、数時間だけでも時間をください。あなたの力が必要です」と呼びかけ参加者を少しづつ増やしました。
酒におぼれ就労どころでなかったある男性が、このプログラムに参加するうちに生活のリズムが改善され、友人もでき、さらには職場仲間を指導するマネジャー的存在になっていったという話もありました。この手ごたえは彼に働く喜びを再び感じさせました。こうしたプログラムで仕事がしっかりできるんだと認められ、就労につながるケースや、こうした経験を履歴書に書ける、というのも就労に近づく第一歩になります。母子家庭のお母さんが訪問介護ヘルパーの食につき、生活保護から抜き出るとともに、高齢者介護の現場の人手不足解消にもつながっているそうです。
今まで、ケースワーカーたちは、なかなか就労につながるケースが少なく、仕事の手ごたえを感じる機会も少なかった。ところがこの自立支援プログラムをきっかけに、市職員の中にはケースワーカーになることを望む人まで出てきたそうです。メディアの取材も増え、職場のモチベーションも高まっているそう。
こうした取り組みでいきなり生活保護受給者がたくさん減るわけではありません。求人がどんどん増えるわけでもありません。プログラムに参加してもいきなり高い給料をもらえるわけでもありません。しかし、多少なりとも収入を得る人も出始め、受給者一人当たりの扶助費が約5年で1万円近く減りました。何より働きたい、いつか生活保護から抜け出したいと思う受給者が増え、その手立てをケースワーカーと一緒に考えられる、そんな状況が生まれているのです。ちょっと前までは市福祉部生活福祉事務所に異動になった段階でガッカリしていた市職員たち。今では地域の課題を先頭切って解決する素晴らしい部署に変わっているのです。どんな社会の課題にも、どんな職場にも活路はあるのかもしれませんね。
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詳しく知りたい方は本も出ていますので参考までに