在宅高齢者と家族を守る方法~足寄町と栗山町

      2017/04/14

年齢を重ねると、思うように身体が動かなくなり、医療、福祉、介護、生活支援など様々な公的支援が必要になります。ですが、国の公的支援だけで高齢者や家族の不便、大変さはなかなか解消できません。今回は非常に興味深い、独自の先進的な取り組みを行っている2つの町を紹介します。なぜテレビ特番にならない?と思っちゃうほど凄い取組です。

もし病気で倒れたらどうしよう・・・の不安。

 高齢者が自宅で脳梗塞などにより倒れた場合。一刻も早く病院で手術などの処置を行わないと、命を失う、あるいは麻痺など深刻な後遺症が残ることがあります。特に田舎で、独居で暮らしている高齢者の場合に、身体のしびれなどを感じても即座に病院や家族などに相談できるか、できたとしても救急車がすぐ来るか、病院までの距離はどうかといった大きな問題があります。また、入院先は町外ということもありえますし、退院後、麻痺などの残るからだで今まで通り独居暮らしができるかどうかという新たな課題も発生します。

 足寄町の場合は、脳梗塞の手術を受けるには60キロ先の帯広まで行かなければなりません。町内在住のОさんは、脳梗塞で帯広の病院に運ばれ、治療後は約5カ月のリハビリに励みました。その当時、Оさんが考えていたのは「特養に入所している夫に代わって任されている我が家を留守にしていることが心配」だということ。そして同時に「リハビリを終えて自宅に帰っても、麻痺の残る身体で、買い物や料理、お風呂を自分でできるだろうか」という不安です。そしてそのことを病院やリハビリの先生に相談すると、ある程度相談には乗ってくれますが、足寄町のご自宅のお風呂やキッチンの状況、家族のサポート状況や買い物のしやすさなどを帯広の病院の医師や看護師さんは十分にはわからないので答えにくい点も多々あるわけです。

 本人も不安になりますが、既に足寄に暮らしていない息子や娘さんもお母さんのことが心配でなりません。こうした場合、一般的にはどうなるかというと、子どもたちがお母さんに同居を勧める、あるいは老人ホームなどに申し込みをする、あるいは子どもたちが仕事を辞めるなどして実家に帰って親の面倒を見る、といったことが選択肢として本人と子どもたちは考えるわけです。いずれにしてもそれらはそうやすやすと実現できるものではありません。ですが本人や子どもたち、そして病院の先生たちにとって、答えは出しにくい問題なので、退院後に、本人や子どもは役場などに相談に行き、老人ホームなどへの申し込み方法などを聞いたりするのです。

●役場職員が病院にお見舞いに行く仕組み

 足寄町の場合、町内の高齢の住民が入院すると医療機関から連絡をもらえる体制が整備されています。病院から連絡がくると、町福祉課の職員が、たとえ町外であろうとも速やかにお見舞いに行くのです。公務として。すると、入院で不安な気持ちを抱えている高齢者は「うちの町の職員がお見舞いに来てくれた!」とすごく喜ぶのです。ふるさとの人が来てくれただけでもうれしいし、役場の人ならば聞いてみたいことだってあるからです。

 つまり、入院・リハビリが長引いたら家の戸締りとか除雪も心配になるでしょう。また、退院後、一人で暮らせるかどうかわからないけど老人ホームに申し込みできるのか、とか、そういうことも相談したいわけです。あるいは、見知らぬ地の病院の先生や看護師さんにはなかなか腹を割って話せないことでも、地元の役場職員ならついつい話せてしまうこともあるのです。話せるだけでも安心につながります。これが足寄町の先制的訪問相談支援の第1歩です。
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●在宅への道が開けていく

 Оさんは、手足に麻痺が残りましたが懸命のリハビリの甲斐があって、食事を作るくらいのことは自分でできるようになりました。ただし自宅のお風呂は昔ながらの段差の大きなお風呂。どうしてもお風呂に一人で入るのは難しい状況でした。お子さんや病院などと相談するだけであれば、もう退院後は老人ホームに申し込みを・・・という状況でしたが実は足寄町の老人ホームは入所待機者が100人を超えていたのです。

 そんな中で、Оさんの本当の願いは、自宅で暮らすことでした。何度もお見舞いに通ってくれる町職員が、自宅に緊急通報装置を設置することや、デイサービスによる入浴や交流の機会をケアマネジャーと相談、心配する子どもさんたちとも話し合いを重ね、結果、自宅で今、悠々自適に暮らしているのです。ご本人が在宅を希望する場合は、それに沿った方法を町職員が病院に入院しているときから先制的に相談に乗る。だから病院のベットで不安が募って・・・ということがないのです。普通、役場というのは困ったときに相談に行けば、相談に乗ってくれる場所だと思いますが、この取り組みは、町民が不安に感じ始める時期に、頼まれてもいないのに役場職員の方から顔を出して相談相手になる、そんな取組なのです。本人の望みがかなう、子どもたちの生活も守れる、そして老人ホームの待機者もこれにより半分以下に減りました。

●いったいどうやってこんなことができたのか

 この取り組みは、父親の認知症介護を経験した阿久津町長が陣頭指揮を執り、町の国保病院に招聘された地域医療に熱心な村上英之医師が医療と福祉の連携を町に提言したのがきっかけでした。民間病院で自治体と連携した健康増進などの指導を行っていた高田康範さんを町の参事に迎え、彼を中心に行政職や介護福祉士、栄養士、ケアマネなど41人によるワークショップを行って課題を話し合いました。その中で先制的訪問相談支援が生まれ、町内にあった民間病院が新型老人保健施設に転換して高齢者のケアを強化するという官民連携による病床転換、また町役場隣接地に高齢者の在宅、施設入所、交流、そして長屋方式の短期入所なども受け付ける複合施設も整備されています。今では足寄町のこうした高度な医療・福祉連携の取組にあこがれて、道内各地から介護の人材が集まるといった状況も起きています。私はこの取材、猛烈に取材中感動しました。自治体って、こんなことまでできるのかと。。。

ここまでで既に結構長く書いてしまって恐縮ですが、実はもう一つ、別の観点で、高齢者福祉で有名な自治体があります。

 国の施策に先駆けてどんどん福祉施策を進めていくし、高齢者を支える家族に対する視点、福祉に無関心な一般の方々へのアプローチ、さらには福祉を事業とする民間事業者への配慮、さらには福祉を担う志ある若者の育成を通じた福祉全体への配慮などなど・・・どうしてもぜひ皆さんに知って頂きたいので、書いていきます。

●福祉の先進地栗山町の場合

全国初の公立介護福祉士養成校を創設

 栗山町は昭和63年に全国初の公立介護福祉士養成校を創設しました。町営で守り続けていることによりこれまでに2000人以上の介護福祉士を育ててきました。道内を中心に多くの市町村で就職、彼らは高齢者・障がい者を救う人材として活躍しています。また低賃金に悩みがちな福祉の職場ですが、介護福祉士の人材が一定数以上いる施設に就職できれば1年目から年収300万円以上も確保できます。知識を得て、収入も得る。福祉の現場で活躍したいという高い志の若者を受け入れ、優秀な人材に育てることは高齢者のためでもありますが、若者の未来を切り開く取組でもあります。自治体の財政も容易ではない時代にあって、町内だけでなく北海道全体の福祉の底支えになる、人材育成をしっかり続けているのです。

福祉の現場を町民に知って欲しい!

 平成4年からは町が高齢者や障がい者が日常生活でどんなに大変な思いをしているかを町民に伝える福祉情報誌「くりやまプレス」を発行しています。当時は「介護で他人の世話になるのは恥だ」と福祉サービスの利用を拒む高齢者もたくさんいたのです。また娘や息子さんも親の世話は子どもがやって当然と、仕事や子育てとの両立をしながら必死の苦労をしている人もたくさんいます。くりやまプレスは、実際に町内で暮らす高齢者や障がい者にインタビューし、日常生活の大変さや苦しみ、福祉の支援や地域住民の優しい心がどれだけありがたいかなどを赤裸々に、実名と写真入りでどんどん掲載していく革新的な広報紙でした。このくりやまプレスを見て育った若者の中から福祉の道を歩んだ人も多数いたそうです。

 他にも建築士会などと連携し、住宅のバリアフリー化、民間老人保健施設の誘致、独居高齢者が町内の若い住民の家にホームステイ、ノンステップバスの導入など、独自の高齢者支援策を次々と取り組んできました。

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ケアラーが集うカフェ

●ケアラー支援に挑戦

 ケアラーとは、家族や近親者などの介護を無償で行っている人のことです。町社協は平成22年に町民の実態調査を行い町民の15・5%がケアラーで、平均年齢が73・4歳であることを突き止めました。回答からは、ケアを行う中で疲労が募り、仕事を辞め、自分の健康すら考えることができない、どうしたらいいのかわからないという悲痛な声がたくさんあがってきました。そこでケアラー世帯の定期訪問、町内会や民生委員、そして民間のサービスなどとのつなぎを始めました。ケアラーズカフェもオープンさせ、ケアラー同士の交流も進めています。集落単位のケアラーズカフェを創る取組は、民間の障がい者施設などとの連携で進めています。過疎化により集落内で福祉、住民同士のコミュニティ、買い物などを賄うのは難しい時代になっています。福祉と集落の維持、活性化をどちらも対策しているのです。ほかにもいろいろありますがとてもすべては紹介しきれませ。ケアラー手帳、宅配便利帳など新たな取り組みも進めています。

なぜテレビ・新聞はもっとこの事例を扱わないのか

 どちらの取組も、熱い職員、町長、そして医療や介護、福祉の専門家や住民たちが、既存の仕事の枠を飛び越えて、高齢者とその家族の本当の悩みに真剣に向かい合い、どうすればいいのか必死に試行錯誤した結果、国の施策やほかの市町村ではまだそこまでやっていないことを、独自の判断でぐいぐい進めてきたという凄みです。そしてどちらも明確に成果が出ています。

 私は友人知人などにこの2町の取組を話したりすることがありますが、ほとんど知っている人はいません。なぜこんな素晴らしい取組が知られていないのか…。数日のロケをすればテレビの特番に十分、十二分になりうる絵も取れます、話も聞かせてもらえます。行政や病院、福祉の取組を受け止め活用し感謝する町民もたくさんいます。足寄のОさんのお宅は開拓農家で、ストーブもお風呂のボイラーも薪です。災害時の停電でも全く困りません。家に対する熱い愛着も含め素晴らしい話を伺えました。これは本にもできる、新聞記事にもなる、テレビの特番にもふさわしい、素晴らしい取組でした。

 - 地域課題